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どこまでも玩具
第12章 晒された命

 類沢の高らかな笑いが響く。
 「馬鹿だね、お前も」
 「なんで笑うんですか?」
 雅樹はハッと口を押さえた。
 あの頃のように敬語に戻ってしまった自分に驚いて。
 だが、今の笑いを聞いてタメ口をきけるような度胸は無かった。
 鳥肌が立っている。
 「そうまでして何に縋りつきたいの?」
 言葉が詰まる。
 自分が優勢なのに。
 雅樹は釘を指に押し付けた。
 血が出るほど。
 赤い血を見下ろし、類沢は唇の端を持ち上げた。
 「まだ自虐は治ってないんだ」
 「煩い!」
 「大声出すと瑞希が起きちゃうんだろ?」
 雅樹は歯を食いしばって、かつての教師を睨みつけた。
 「あの男が死んでも良いわけ?」
 「それだけは嫌かな」
 「なっ……」
 類沢の目から光が消えていた。
 鋭く睨みつけられ、目を合わせていられなくなる。
 「他の誰かだったら壊されても構わないよ。お前がどうしたって好きにさせてあげる。でも瑞希だけは嫌なんだ。触らせたくないね、そんな汚い手なんかに」
 ガッ。
 「どこまで人を馬鹿にするんですかっ!」
 肩に釘が食い込む。
 頭に痛みが貫き、汗が流れる。
 だが、類沢は表情一つ変えることはなかった。
 哀れなものを見るように、雅樹を見下していた。
 「……お、俺は」
 「気が済んだ? さっさと出て行って二度と現れないでくれる?」
 「ふざけんなっ! 自分がしたこと全部棚に上げといて」
 「僕にどうして欲しいの?」
 「云ったじゃないですか! 裁判に負けてあの男と」
 「そしたら満足する?」
 「するわけないじゃないですか!」
 空気が波打つ。
 「…見て下さいよ」
 袖を捲る。
 沢山の痣で蒼くなった肌が蛍光灯に照らされる。
 「それが僕がやった"虐待"?」
 類沢は副本の内容を思い出しながら問う。
 「あんたを訴える為に二カ月準備したんです。ホラ、脚も。腹も。背中も全部」
 「自虐がお好きなお前らしいやり方だなって思ってたけど」
 「煩いなっ! 診断書も用意出来たし、絶対裁判は俺が勝つんです」
 「なら何でわざわざ瑞希を拉致する意味があったの?」
 「……」
 「大体そんなもの証拠にしても信憑性なんて低い。判決を揺るがす程じゃない」
 ギチ。
 ギチ。
 釘が肩に刺さってゆく。
 今すぐ蹴り飛ばして止めることも出来たが、類沢は壁にもたれ、敢えてしなかった。
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