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どこまでも玩具
第1章 現れた白衣
 「だりぃな、集会なんて」
 終わって早々金原が愚痴を吐く。
 生徒の流れに乗って、のろのろと教室に足を運ぶ。
 「しかもあの類沢だっけか。あんなん女子が嬉しいだけじゃねーか」
 類沢。
 俺は曖昧に相槌を打つ。
 まだ胸が霞んでいた。
 あの男の視線に絡められたままだ。
 「なぁ、金原。あいつ……なんか変じゃなかったか」
 「変? どの辺が?」
 返事に困る。
 俺だってわからないからだ。
 わからないから怖い。
 教師なんて今まであしらってこれた分、初めて感じる無力感。
 「いや……やっぱいい」
 しかも、俺だけが感じている。
 こういうのを天敵と言うのだろうか。
 とりあえず、この半年は保健室には行かないでおこう。

 そこは運命の悪戯って奴で、俺は保健委員をしていた。
 一番仕事が少ないから、ジャンケンしてまで就いたのだ。
 今じゃ敗者に譲りたくて仕方がない。
 何故かって、担任が放課後こんなことを言いやがったからだ。
 「保健委員……あ、紫野が休みだから宮内だけか。保健室にアルコールを取りに行ってくれないか。これから受験だし、体調を崩さない為にも消毒は大事だからな」
 (知るかっつの)
 だったらインフルエンザにかかった方がマシだ。
 だが、掃除が終わり、屋上で悶々としていた俺に呼び出しがかかる。
 宮内瑞希、すぐに保健室に来なさいだってよ。馬鹿じゃねぇの。
 生まれて初めての呼び出しの不名誉さに苛つきながら屋上を出る。
 格好の暇つぶし場だったが。
 金原はからかいながら手を振った。
 「モテの秘訣でも聞いてこいよ童貞」
 「……絶対コロス」
 「はは、じゃあ終わる前にオレは帰るかな」
 金原が向かってくる扉を乱暴に閉じ、階段を降りる。
 なんだろう。
 妙にムシャクシャしている。
 夏休みが終わったから。
 勉強しなきゃなんないから。
 違う。
 保健室に行かなきゃだからだ。
 何で?
 類沢に会いたくないから。
 何で?
 それを今から知りに行く。

 「失礼しまーす。呼び出された宮内です……」
 そろそろ部活も終わる時間。
 消毒の匂い漂うその部屋には、机に向かう類沢しかいない。
 「遅いよ」
 想像以上に低い声が迎え撃つ。
 「……すみません」
 気だるく謝り、たった一つソファに置かれたボトルを持とうとする。
 その背中を押された。
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