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どこまでも玩具
第3章 枯らされた友情
目覚ましが鳴る。
止めようとしたらベッドからずり落ちた。
「あんた何やってんの」
逆さまの母の顔。
「あ……おはよ」
「おはよじゃないわよ。ほら、熱計って。今日は学校行けそう?」
受け取った体温計に目を落とす。
母が不審そうに窺う。
「頭痛いの? それとも学校で悩みでもあ」
「朝食なに?」
俺は母の言葉を遮って尋ねる。
お互いそれ以上詮索はしなかった。
母が出て行ってから、カーテンを開けて空気を入れ換える。
深呼吸する。
息を吐く。
普段は忘れている呼吸の感覚。
それから安心を貰う。
鞄を肩に担いで下に降りる。
既に妹が旨そうにトーストにかじりついている。
「美里、服に零してるぞ。みっともない」
高校一年の美里はまだ中学の幼さが残っている。
「瑞希こそ、寝癖がみっともないよ~」
お兄ちゃんじゃない。
呼び捨て。
もう慣れてるが。
「いただきます」
俺はバターを塗ったトーストに大きくかじりついた。
「はよー」
「だりぃな」
教室はいつもと変わらぬ喧騒に満ちている。
俺は紅乃木を探した。
昨日、鞄を届けてくれたらしいが、寝込んでて出られなかったのだ。
「よ。瑞希」
「紫野……てめぇがいないせいで何があったと思ってんだよ!」
俺は肩に置かれた紫野の手を捻り上げる。
「ちょ、痛い痛いって」
バンバンとギブアップを伝える紫野をたっぷり一分焦らして解放する。
大袈裟に腕をさするのが余計に苛立ちを呼び起こす。
「なんだよ。せっかく復帰した友人に対する労いの言葉はないのか?」
「お前、今日から半年保健委員の仕事全部やれよな」
「えー……ま、そんな大した仕事無いからいいけど」
その横面を殴りつける。
それほど力は入れなかったつもりだが、紫野は後ろによろめいた。
何人かの視線が集まる。
「……にすんだよ瑞希!」
「今すぐ保健室送りにしてやろうかと思ってさ」
俺は少しスッキリして、紅乃木の元に向かった。
後ろで紫野が騒いでいるが聞こえないフリをする。
「アカ、昨日はありがとな」
机にもたれかかっていた紅乃木が顔を上げる。
その目が少し充血していた。
「ん……大丈夫か?」
「体調も元に戻ったよ。金原見てないか?」
ガタリ。
紅乃木がよろめいた。
「金……原……」
「アカ?」