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どこまでも玩具
第4章 放たれた憎悪

 チャイムが鳴る。
 絶対また来ますと言い残して、彼女たちは授業に向かった。
 深く息を吐く。
 疲れでも緊張でも何でもない。
 名付けるなら虚無だ。
 類沢はペンを取って指先で回す。
 彼女たちが性的対象に見られない訳ではない。
 毎日よく通うものだと感心もしている。
 さっきのメンバーの中には、既に告白してきた子もいる。
 丁重に断るが、必ず訳を聞かれた。
 自分が受け入れられない現実に、何故理由を求めるのだろう。
 毎回違う説明をでっち上げるのも飽きてきたと言うものだ。
 カリカリ。
 今日付けの県の委員会に提出する書類をまとめてゆく。
 問題――特になし。
 流行っている病状――腹痛。ほぼ八割がストレスによるもの。
 カリ……
 類沢はペンを置いて目頭を押さえた。
 深呼吸を一つして、コーヒーを手に取る。
 事務仕事は楽だが、それゆえ集中が途切れやすい。
 時計を確認して、また書き出す。
 ガラガラ。
 「失礼します」
 ソプラノの綺麗な声と共に、彼女は入ってきた。
 確か、三組の仁野有紗。
 授業中に来る生徒は珍しい。
 「類沢先生、生理用品て借りられますか?」
 「あぁ……そこの引き出しに入ってるから、持って行きなさい」
 「はぁい」
 この依頼も慣れたものだ。
 顔を真っ赤にして尋ねる生徒もいれば、当たり前のように奪ってゆく生徒もいる。
 女性の生理現象とは、コントロール出来ないから面倒なのだろう。
 仁野は暫く引き出しの中を探って、それから二つほど持参のポーチに入れた。
 出て行くかと思えば、こちらに歩いてくる。
 「何してるんですか?」
 居つくつもりなのか。
 「事務仕事だよ。ここの生徒がどんな様子か報告する」
 「へぇー」
 興味を装うような態度が気にかかったが、追い出す訳にもいかないので、好きに歩かせた。
 仁野はベッドを覗いたり、体温計を持ったり置いたりしている。
 特に用はないのかもしれない。
 カチ。
 時計が一時を指す。
 仁野はそれを見上げて立ち止まった。
 「先生ぇ……抱いてくれませんか?」
 パキッ。
 シャーペンの芯が折れる。
 仁野の方を見ると、彼女は下着を脱いでいた。
 「今すぐ」
 仁野は黒いパンツをベッドの方に投げ捨てた。血は付いていない。
 二人は無言で見つめ合う。
 「鍵は閉めたし、不在ってしときましたから」
 
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