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どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
夜が来る。
暗くなる。
家の中の温度は二人分の空白だけ冷たくなる。
俺は夕食を買ってきて、部屋を見回した。
まだ、連絡は来ない。
両親が家を出たのは昨日の朝。
そんなに大事じゃない。
そう信じたい。
「美里、ご飯だぞ」
「いらない」
美里はニュースに釘付けになっている。
その隣に腰を下ろして、食べないと体に悪いと云おうとしたときだ。
「――して、未だに道路は寸断されたままになっております。宿泊客は食糧や水を絶たれ、自衛隊ヘリが向かっています。しかし――」
「これって……」
美里が瞬きせずに頷く。
「ママたちが行ったところ」
俺も画面を見つめた。
「――しかし、今入った情報によりますと、先日の夕方宿に向かったバスが落石に巻き込まれ、生存者の捜索が続いているとのことです。現在見つかった方は以下の方々で、いずれも病院にて死亡が確認され――」
「嘘だ」
美里が呟く。
画面の下に並ぶ名前。
いくつもの名前。
その中に見つけた自分の名字。
いや、両親の名字。
「嘘嘘うそだうそだうそだうそだうそだようそだうそだ!」
「美里!」
頭を抱える美里を抱き寄せる。
だが、震える肩を支える自分の手も震えてる。
「……ママぁ」
言葉に詰まる。
現実だなんて信じられない。
「……パパぁあ」
ソファを殴る。
やるせない。
信じたくない。
電話が鳴る。
美里を残し、フラフラと出る。
「もしもし? 瑞希くん? 詩織伯母さんよ。今テレビ見てたんだけど、本当に香奈恵たちなの?……ねぇ、連絡は来てないの」
詩織伯母さんは、母さんの姉。
香奈恵が母さん。
「来てない……です」
電話の向こうで息を呑む音がする。
俺は両手で受話器を握り締めた。
後ろで美里が泣いている。
「詩織伯母さん……俺、いや……俺たちどうしたらいいんすかね。母さん達を迎えに行って……いいんですかね」
「瑞希くん……」
大きく深呼吸をする。
「幸い明日は土曜日です。往復費くらいありますから……」
「瑞希くん」
「だって信じられないですよ!」
怒鳴ってしまった。
美里を振り返るが、さっきと変わらない姿勢で泣いている。
「落ち着きなさい。テレビ見たでしょう。今行っても立ち入ることもできないわ」
「黙って待ってればいいんですか」