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どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
ピンポーン。
何をしているのか。
提げたビニール袋を見下ろして苦笑してしまう。
扉が開く。
「はい」
開けるんだ。
今時インターホンを見ない人いる?
「どうも」
焦りだった。
強引な焦りだった。
雛谷が手を出す前に、瑞希とちゃんと話すべきだと直感したのだ。
「ちゃんと食べてる?」
随分と顔つきが変わっていた。
あの事故に、瑞希の名字を見つけてからずっと胸騒ぎはあった。
ただ実際に彼に会うと、その重みに過去を思い出さざるを得なかった。
余りに衰弱している。
「……あんたの顔、今一番見たくない」 だろうね。
知ってる。
知ってるよ。
でも、だからって出て行かない。
「今更……教師面すんなっ」
今更じゃない。
一度として、教師の顔を外したことはないのだから。
今だって。
「全部あんたが来るまで幸せに進んでたのに! こうならなかったのに!」
流石に言葉に詰まった。
同時にチャンスとも思った。
ここまで追い込まれた瑞希は見たことがなかったから。
―宮内瑞希ですよね? かわいい生徒を目につけたじゃないですかぁ―
雛谷の言葉が頭に響く。
あの男にだけは、絶対に渡したくない。
絶対に。
抱きしめて、拒否されないのは驚きだった。
追い返されてでも何か食事をさせてやる気だったが、瑞希は抵抗しなかった。
体力の問題もあったかもしれない。
しかし、警戒はしているようで、掃除の間も、料理の間もなにかにつけてジーっと見つめてくるのは堪らなかった。
包丁を凝視している時は、こちらも少し身構えたほどだ。
夕食が出来上がれば帰るつもりだった。
あんな姿を見て、自制が効かなくなるのを恐れたのもあるが、今は一人にさせるべきだと思ったから。
「じゃあ、お大事にね」
「えっ」
驚いて振り返ってしまった。
瑞希が目を見開いて固まっている。
理解できないかのように。
「なに?」
「あ、いや……帰るんだ」
「まだ家事あった? あぁ、お風呂沸かそうか?」
「違くて」
違う?
なにが違うの。
そして、悟った。
一人の孤独を。
ならば、そばにいてやろう。
ここにもそのために来たと嘯こう。
ねぇ、瑞希。
安心したら駄目だよ。
たった一回の優しさなんかで。
それほどつまらないことは他にない。