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どこまでも玩具
第8章 任された事件
「はい……ありがとうございました。心配かけました」
職員室から出て深呼吸をする。
もう何度目。
こんな大事な時期に休んでばかり。
目頭を押す。
まだ、表情が固い。
笑えない。
帰りたい。
我が儘な欲求がグルグル。
山とか行きたいな。
鳥の声だけ聞いて。
山頂で日の出見て。
海でもいいな。
延々と波に浸かりたい。
体の汚れを全部落とすんだ。
浜辺で太陽見て。
夜は星が綺麗らしいし。
ていうか……俺……
「鬱になりかけてない?」
誰もいない廊下で、虚しく言葉だけが漂った。
「これ、やるよ」
金原がノートを置く。
「……なに?」
「休んでた分の全教科。書き写したから。それなら楽だろ」
「圭吾やっさしぃ!」
「うわっ」
背後からアカが抱きつく。
「気持ち悪いな! なんでいきなり呼び捨てなんだよっ」
「なんとなく」
俺は力なく顔を緩ませる。
楽しそうだな。
日常って。
―喘いでりゃいいんだよ!―
「……っ」
吐き気がする。
金原とアカがふざけあいを止める。
「大丈夫、か?」
その質問はもう聞きたくない。
瞼の裏に焼き付いた顔。
三人の男子。
多分、違うクラス。
同じ学年。
名前は知られた。
呼び出されるかも知れない。
ガクガク脚が勝手に震える。
「瑞希……」
二人に云おうか。
なんて?
自分が問いかけてくる。
雛谷のことも話す気なのか。
当然訊かれる。
なんで屋上に行ったのか。
下らない理由だ。
なんだよ。
全部自業自得じゃないか。
俺はシャーペンをカチカチ鳴らす。
芯がどんどん出て来る。
こんな風に、自分の記憶も無くなってしまえばいいのに。
違う。
違う。
そんなことを望んでるんじゃない。
話したい。
聞いて欲しい。
助けて欲しい。
―殺されるかなぁ……―
えっ。
記憶の中の類沢が、ふっと笑って手を振った。
―いや、ほら。瑞希の家に見舞いに行ったなんて言ったら、あの二人にさ―
―……言わなくていいですよ―
あの時間。
あんなに静かな時間は無かった。
涙腺がピリッと刺激される。
認めたくない。
でも、真実。
―もう大丈夫。―
自分の全てを知っているのは、類沢だけということ。
信じられない。
「なんだ……ソレ」