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官能エッセイ集 ~官能の景色~
第12章 “なりたい自分”になったとき

昔、思い描いていた『なりたい自分』像があります。

あんな風になれたら、人生変わるだろうなぁ、という憧れが誰にもあると思います。

女の子とデート出来たら素敵だろうな、とか。
キスできたら、もっと素敵だろうな、とか。
その時は“それ”しか見えませんでした。

それと引き換えなら、どんな犠牲も(ある程度の)払えるような気がしました。
でも、それも“なって”しまいました。

“なって”みても人生は変わりませんでした。

デートもしました。
キスもしました。
自分は結婚できるのか、と思ったこともありました。

でも結婚もしました。

自分は父親になれるのだろうか、と考えたこともありました。
今では、父親になりました。

結婚してても、ガールフレンドがいっぱいいたら、すごいだろうな。
そんな途方もないことに、憧れたこともありました。
でも、何人かとデートしました。

私の人生は変わったのでしょうか?

自分では変わった気がしないのです。
私は私でした。
なぜ変わらないのでしょう?

多分、“そのとき”それを“達成した”自分に気付かないでしまったからです。

人間、ともすると“達成する”喜びより、波風立たないで“何事もなくやり過ごせる”方に神経を使ってしまうものです。

達成した“反作用”で発生した“喜び”以上の“悩み”に今度どう対処するかに気持ちを奪われて、達成した実感がないのです。
そしてそれがまた日常になってしまう。

その繰り返しなのですね。
私だけなのかもしれませんが。
損な性格です。


それに人間とは贅沢なもので、ひとつのことを達成してしまうと、次の憧れにすぐ目が行ってしまうものなのです。

『食い物と女』には困らない生活になってしまいました。

さて、次の憧れは……。


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