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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る
アリエッタの合図と共にレオは琥珀色の双眸を瞼に隠し、静かに時を数える。アリエッタは秒針に視線を落として迎える自分の番のため、1秒、1秒を眼で追ってリズムを刻み感覚を覚える。
レオが先にやったのは、アリエッタへの配慮だろう。懐中時計は持ち合わせていないし、こんな遊びだってしたことがない。
レオの配慮を有り難く受け取り、待つこと1分後──正確には58秒後。レオがすっと右手を軽く上げた。
「結果はどうだった?」
「2秒足りなかったわ」
「惜しいな。次はアリエッタの番だ」
アリエッタは蓋を一旦閉じてテーブルに置いた。
たった2秒の時差を上回るのは困難に思えた。けれど負けるわけにはいかない。1秒のリズムは覚えたし、落ち着いてやればきっと大丈夫だと言い聞かせてレオの合図を待った。
レオが合図するとレオに倣ってアリエッタも瞼を閉じ、心の中で1、2……と数えてく。
だから気付かなかった。レオが眼を細め、漏れる笑みを隠しきれず左の口角をあげていたことに。
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