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とあるオクサマのニチジョウ
第12章 Scene.02
「まぁ、遠慮しないでやってくれよ?」
「は、はい。戴いてます」
「これも、宜しかったらどうぞぉ」
「は、はい。ありがとうございます」
ソファーに向かい合って座る、正行と後輩の男。
恭子は間に置かれたテーブルに上体を倒して料理を置きながら、脇目で後輩の男をチラッと見遣る。
…やっぱり…何処かで………
パタパタとスリッパを鳴らしながらキッチンへと戻った恭子は、流し台に腰を預けて顎に人差し指を当てて考え込む。
大柄な体型ながら、ワイシャツにネクタイ、スーツを着た姿は正行の後輩社員としてはおかしくない恰好。
しかし、黒い短髪に黒く日焼けした肌で、スーツを着こなしているよりも、着られている印象の方が強かった。
…営業より……力仕事の方が向いてそうなんだけど………
チラッとリビングで談笑する二人を見比べる。
片や、白髪混じりで髪も薄くなった、中年太りもいいところの夫。
片や、ワイシャツの上からでも分かりそうな程に、引き締まった体型をしている後輩の男。
「で、少しは仕事に慣れたかな?」
「いやぁ。営業なんて初めてで………。でも、頑張りますよっ」
苦笑を浮かべながら太い腕を上げて、ポリポリと頭を掻く後輩。
日焼けした肌から覗く白い歯と若々しい雰囲気に、恭子は思わずドキッと胸を高鳴らせた。
…ちょ……私…ときめいてる場合じゃなくてぇ……
…やっぱり…あの頭とか…日焼けに………スーツ………
…どっかで見たようなぁ………
僅かながらにドキドキと鼓動を速まらせながら、恭子は無理矢理に思考を切り替えた。
「おぉい。お前もこっちに来なさい」
「えっ……ええっ」
以前と変わらない正行の恭子を呼ぶ声。
振られた左手からは指輪の姿は無く、恭子はそれを視界に入れずにリビングへと向かった。