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姫はひそやかに咲き乱れる~戦国恋華【れんか】~
第1章 始まりはいつも雨
面妖なことに、幾つもの花が同じ枝についているというのに、その花だけが半開きになっていて、後はすべて固く閉じていた。
その花は静かな水面で震えていた。秋の虫が低く啼き、その啼き声は闇の底を這うように響いている。障子戸からかすかな風が吹き込んでくるが、それでも夜は暑い。艶(あで)やかでありながら、清楚な純白の花は星明かりに何を想い、誰を待っているのだろう。
〝佐治郎さま〟と、徳姫は闇に向かって小さな声で呟いた。
その花は静かな水面で震えていた。秋の虫が低く啼き、その啼き声は闇の底を這うように響いている。障子戸からかすかな風が吹き込んでくるが、それでも夜は暑い。艶(あで)やかでありながら、清楚な純白の花は星明かりに何を想い、誰を待っているのだろう。
〝佐治郎さま〟と、徳姫は闇に向かって小さな声で呟いた。