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大蛇
第5章 虚しい夜
「君に問題があるわけじゃない。これは俺自身の問題に過ぎないんだ。だから気にしないでくれ」

ルロイはエリーから顔を背けた。

彼の目に涙が浮かぶ。

ルロイはサイドテーブルにあった煙草を咥え、火をつけようとしたが、彼の手は細かく震え、なかなかマッチを擦ることができなかった。

見かねたエリーが代わりに火をつける。

「ははは、煙草を吸うのは何年振りだろう」

ルロイは力なく笑った。

                    *

ルロイは、娼婦たちの控えの間でジャンを待った。

店のママは傷心のルロイにウイスキーを出した。

彼女もまた娼婦上がりの女だった。

水商売の人間らしい強かさを身に着けていたが、それと同時に娘たちの母の顔も持っていた。

「まあ、人間落ち込むこともあるわな」

カウンターに俯せるルロイを励ますように言葉を掛けた。

「ごめんなさい、エリーさんに嫌な思いをさせてしまいました」

ルロイの言葉に、ママは大笑いする。

「はっはっは!んなこたあ、気にすることないわよ。

あたしたち娼婦はそんなに柔じゃないわ。

それに、あんたみたいな女に優しいお客は大歓迎よ。

中には、金さえ払えば女に暴力を振るってもいいと勘違いしている馬鹿も大勢いるんだから。

あんたはちっとも悪くないよ」

ルロイは彼女の言葉に涙を流した。情けないことに、もう顔をあげられない。

「好きな人がいるのね」

後ろで控えていたエリーがルロイに向かってそう言った。

「オルガさん、っていうのね」

ルロイは黙って頷く。

「私はもう恋を忘れたから、誰かを好きになれるだけであなたが羨ましいわ」

エリーは遠い目をした。

「この子の恋人は、前の戦争で死んだのよ。彼氏もあんたと同じ軍人さんだったのよ」

ママがルロイの耳元でそう囁いた。

あの戦争で、自分だって死んでいたっておかしくはなかった。

彼は言葉を詰まらせる。

「失礼だけど、軍人さん、聞いていいかしら」

エリーが言葉を繋いだ。

ルロイは頷く。

「オルガさんは生きていらっしゃるのよね」

 ルロイは再び頭を縦に振った。

「それならまた、きっと会える日がくるわ」

 ルロイは彼女の言葉にはっとさせられた。

それは闇に差す一条の光だった。


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