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大蛇
第9章 疑惑
                    *

 一方、オルガ・ボーモンもまた、新しい恋に胸をときめかせていた。

彼女は顔に出さないように努めていたが、匂い立つような色気は隠しようもなかった。

ボーモン大佐にとって、妻の異常な美しさはむしろ恐怖であった。

彼女は誰かに恋をしているのだろうか。

そんなことは許せない。

オルガは私だけのものなのだ。

まさか、妻はまだルロイに執着しているのだろうか。

そういえば最近のルロイ・ソガは以前に比べると仕事にも脂が乗り、活き活きしている。

結婚のお蔭と見るのが普通なのかもしれないが、ここは疑った方がよいのかもしれない・・・。

「オルガ、君はまた一段と綺麗になったね」

夕食の席で、ボーモン大佐は唐突にそう切り出した。

大佐の鋭い眼差しは、オルガにじっと注がれている。

彼女は動揺を気取られないため、落ち着き払った振りをしていた。

「あら、そうですか」

「そうだ。何だか、とても女らしい」

「それは、あなたに愛されているからですわ」

オルガは極めて自然な調子でそう言ったが、内心冷や汗をかいていた。

彼女は隠しきれない官能の悦びとルロイへの愛に、身を焼かれてしまいそうだった。

「それは光栄だな」

大佐は言葉とは裏腹に、冷やかさの籠った目で妻を見た。

「愛しているよ、オルガ」

彼は微笑みを浮かべながら言う。

オルガにはそれが愛の言葉ではなく、一種の脅迫のように聞こえた。

・・・・・いいえ、考えすぎよ。

自分にやましいことがあるから、夫の言葉全てが私を責めているように感じてしまうのだわ。

オルガはそう考えるよう、自分に言い聞かせた。

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