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五十嵐さくらの憂鬱。
第16章 …16
樹が入って来て
さくらも樹も思考するのをやめた。
本能に任せて、2人は深く深く繋がっていった。




その数時間前の夕方。
さくらは翔平にひっぱられて
バス停まで猛ダッシュさせられた。

「ちょっと、翔平、も、無理走れなっ…!」

逃げるように樹から離れてしまって
さくらは気が気でない。
そうこうしているうちにバス停について
タイミング良くバスが来た。

それに乗り込むと、まだ下校時間ピークではないため
それほど混んでいない。
翔平に引っ張られるまま
2人掛けの席へ座り込む。

さくらは慌てて携帯を取り出したが
それを翔平に取り上げられた。

「ちょ、返してよ…」
「返すよ、だから、落ち着け。
悪い、動揺してるのは、俺もだ…」

翔平の真剣で、焦った顔を見て
さくらはす、とはやる気持ちが落ち着いた。
ただ、心のざわつきが増す。

「…わかった、落ち着く」
「うん…。ちょっと、散歩しよう。すぐ帰すから、ちょっとだけ遅くなること、連絡しておきな」

さくらがうなづくと、翔平は携帯を返す。
樹に、少し遅くなることを送ると
すぐにわかったと短い文が返ってきた。
そこでやっと、さくらは少し落ち着いた。

「…送ったか?」
「うん」
「悪かったな…急に。その…斎藤 先輩も、ごめんな」

さくらは首を横に振った。

「別に、翔平が謝ることじゃないし…」

びっくりして、変な態度をとってしまったことを
さくらは申し訳なく思った。
それほど、今の翔平は紳士的な態度だった。

「降りよう」

公園前でバスを降りる。
そのまま2人で、公園をぷらぷらした。
特に話すこともなく、ただただ静かな時間だった。

空気はまだ残暑の残り香があったが
深く吸い込めば
肺が爽やかな空気に満たされた。

「さくら、あれ乗ろうよ」

翔平がブランコを指差したので
久々に楽しい気分になって2人で漕ぎ出した。

「やー気持ちいいねー!」

足で空を蹴る感覚が懐かしい。
伸ばして折って、伸ばして折って。
子どもの頃とは違う。
伸びた身長で、脚はすぐに地面についてしまう。
つかないように必死に漕ぐのが楽しい。

横では翔平が同じようにブランコを楽しげに漕いでいて
2人でなんともなしにくすくす笑った。
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