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カウントダウン
第3章 ン
「蒼くん、ファーストキスみたいにドキドキした?」

それがあたかも普通の会話のように。
私は話を続ける。

「うん。ありがとう」

何のありがとうなんだか。
好きでもない、トラウマのオンナとキスをして
本当にファーストキスのドキドキを味わえたのか?

「ファーストキスのドキドキを味わえた?」

やめておけばいいのに、わざわざ突っかかる私を、
じっと見つめながら
「里香の本当のファーストキスはもっとドキドキしたのかよ?」
なんて小さな声で聞く。

「・・・・」
もっとって言われると。
どう答えていいか分からないけど。
ただ単に「心臓がドキドキした」って言う意味なら
蒼くんとのキスの方がドキドキしたよ。

でもそんなことはもちろん白状するなんて自殺行為で。

「じゃぁ、今度ちゃんと里香が教えてよ。
ファーストキスのドキドキを」

寂しそうに、そう笑うと飲み終わったコーヒ―カップを捨てて
6月の曇り空の中を手をつないで外に出た。

「もう少しで梅雨だな」

空を見上げて言うしぐさにドキッとする。
この手を離したくない。

一体、蒼くんの頭の中に
いくつのカウントが用意されているのか分からないけど
永遠に終わらなければいいのに。

私は5年前の不完全燃焼の恋心が
消火していない事を自覚した。

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