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監禁DAYS
第5章 今だから言わせて
「変な質問するのね」
頭の中では決して答えの出ないその疑問を本人にぶつけてみた。
それまでの笑いをぴたりとやめて、美月が真剣な眼差しで答える。
「美香はこんなことしないわ。きっとその前にマスゴミの汚らしい取材に負けて精神がやられちゃう。あいつら本当にうざったいの……ママはそれでおかしくなっちゃった。敦君もだからあんなこと……ふふふ。そうねえ、美香はどうするだろう」
尋ねた後で、なんて残酷な質問だったのだろうと俺は反省した。
何も生み出さない仮定の話なんて。
死ななかったらの話なんて。
「美香は……美香には敦君がついていたからね。過去にしようとするんじゃない? でも、団体立ち上げちゃったりなんてして、必死で犯人は捜してくれるんでしょうね。そのうち、私の部屋からあの恋人が見つかるの。それで、家族は何かを察しちゃったりして、今度は必死で隠そうとするの。私が変なつながりにヤられちゃったんじゃないかって。否定しながら、肯定して。繰り返し悩んで。そのうち……面倒になっちゃって」
言葉が途切れる。
美月は虚空を見つめたまま固まっていた。
頭の中で言おうとしていた言葉を反芻しているように。
「面倒になって……元の日常に戻そうとするの」
元の。
それが厭に深く響いた。
元の日常には、自身もいたというのに。
「でもね、そこには私はいない。家族の悩みの種の私はいない。美香は……死ぬまで慣れないでしょうね。でも、周りが助けてくれる。美香の周りにはいい人が沢山いたから。親身になって相談に乗ってくれる。泣きたいときは泣かせてくれる。私の墓地に一緒に来てくれる。未来の話をしてくれる。そんな友人とか、先輩とか、親族がいる」
恐ろしい仮定だ。
自分にはないものを語る。
そんな姿は痛ましくもあった。
でなければ、こんな状況になどなっていなかったはずだから。