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監禁DAYS
第5章 今だから言わせて
「結婚して子供が生まれて、幸せな家庭を持ったとしても、私は美香の夢に現れたりなんかしないわ……ええ。そう。美香に刃物を向けたりなんて絶対しない」
なんだ。
声色が変わった。
何かを空想する声から、過去を思い出す声に。
「ええ。絶対しない。だって美香は私の唯一の妹だもの。可愛い妹だもの。私が死ぬ理由に美香が関わるなんてきっとない。ない。私が先に死ぬ未来には美香を恨む私なんて混在しない。きっとしない。だから、死んでも美香は私に呪われたりなんてしない。今回は、今はそれが逆だから。だから美香は夢に現れる。レインコートから落ちる血はいつまでも止まらないの。つやつやして綺麗な光沢が、刃物に映って、白い眼球をどこまでも抉り出したって、それは止まらないの。包丁を向けた美香の顔は、雨に濡れて闇に包まれたって、どんな場所の私も見つめてる。お前が死ねばよかったのに。それは違う。敦君、それはまちがってるわ。美香はそんな単純な思いでそこに立っているんじゃないの。きっと違うの。でも、やっぱり美香が死んだのは私のせいだから。美香は私なんかの為にいなくなっていいそんざいなんかじゃなかったのに。違かったのに。やめてって。やめないって。私が無茶をしたから。殺しに来るの? 夢でなら? 一体どうして」
「おい!」
何度呼びかけても止まらなかった口元がびくりと強張る。
夢から覚めたような眼で美月はじっと俺を見た。
ぱちぱちと瞬きをして。
「……いちろ」
「やめろ」
「美香が」
「やめろ」
「何度も夢で」
「やめろ」
力強く美月の肩を掴む。
「やめろって言ってる」
小さな肩は、震えていた。
声と同じように、震えていた。
怯えているんじゃない。
だが、理由はつかめない。
何が彼女をここまで追い詰めているのか。
俺にわかるはずもない。