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crazy night
第9章 絡まる糸
士郎は退院したものの、自宅でしばらく安静にしているよう医者から言われていた。

ある程度の炊事ができることはわかっていたが、有紗は仕事帰りたまに顔をだし、食事の支度やら世話をやいて家路についていた。

士郎にとっては、幸せな時間であったがそれもあと少しで終わることはわかっていた。

約束の試作が終われば、自分は仕事を辞める。

潔く、身を引くことを決意していた。

ただ今は、もう少しだけ、自分の頭に残る傷痕に対する有紗の罪悪感に甘えて束の間の幸せに身を沈めようと…

共に食卓を囲み、手際よく片付けた有紗はいつものように士郎に駅まで送ってもらっていた。

「私が、士郎さんにされたことは…一生忘れないんだと思います。だけど、士郎さんに命も、一晩だけ心も救われたのも…また事実なんですよね」

「有紗ちゃん…?」

「士郎さん、私も士郎さんのことを利用してしまったのかもしれません。私も十分、酷い女ですよね…お互い様ってことで、今までのなにもなかった頃の私たちに戻りませんか?」

有紗が何を言っているかわからず、士郎はその場で立ち尽くしてしまった。

「今日、試作の図面が出来上がりました。あとは現場にとりかかっていただくだけです」

許されるはずのない自分の過ちを、目の前の小さな女の子は全て許そうと言ってくれている…

士郎は熱くなる目頭を抑え、改札の向こうへ消えていく有紗を見送った。
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