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《番犬》が女に戻るとき...
第20章 暴かれる
「…何の心配をしてるの? 」
零に振り返ったハルクは明らかに機嫌を損ねていたのだ。
口の中の飴玉をころころと転がす。
「僕たちはレディに暴力なんてふるわない。変な想像はやめてほしいな」
そして足元を見ながらハルクは頭を掻く。
茜の登場によってすっかりペースを乱された…というより計画を狂わされたようだ。
どんな理由でも女性に手をあげることはできない。
それはイギリス紳士としての、ハルクの常識なのだから。
「僕が誰かだって?アカネ、──…知っての通りただの留学生だよ。日本で学ぶことがあるという親の方針さ」
「…いったい何を学ぶ?今さらいい子ずらするのはやめろよ、私はすでにお前を信用してはいないんだからな…!!」
「……、そうかい」
計画を狂わされたハルクは、今までのような偽物の笑顔をつくらない。
そんな彼を見ながら茜は、自分のなかで妙に納得するものを感じていた。
──ハルクと、そう呼ぶことにずっと違和感を覚えていた…。
それはおそらく、この男の本当の顔を知らないままに名前を受け入れることができなかったからだ。
でも、今なら
偽の仮面を奪ったあとならば
はっきりと呼んでやる。
「ハルク──さっさと、私の問いに教えろ…」
「──…」
茜は初めて彼を名前で呼んだのだ。
「詳しいことはレイに聞きなよ。僕は暇潰しの攻略ゲームをしようとしていただけ」
「……」
「──…メイジイシン、だったっけ?あれを参考にしようと思ってたんだけどね」
ハルクが凰鳴に入学した初日に、日本史の小テストで彼は0点を叩き出した。
ちょうどその時のテスト範囲…
それが幕末と明治維新──。