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《番犬》が女に戻るとき...
第28章 ──…逃げるな
「お前はいつもそうやって、肝心な時に限って逃げようとする…」
茜は悔しかった。
「私のことを、好きだとか…可愛いとか…っ、ネコだとか言いながら鬱陶しく絡んでくる癖に
自分の話になるとそうやって誤魔化すよな」
じょーだんじゃない
こっちはいつだって真剣なんだ。
「…茜さん、俺は、べつに…」
「私は全部 吐き出してきたぞ」
「……っ」
「──…篠田も、もっと真剣に私に向き合え」
迫力負け……零は無言で唾を呑んだ。
茜が両手でタオルを掴んで引っ張るので、彼は腰を曲げて前屈みになっていた。
零の顔からいつもの余裕めいた表情が消えた時──
彼の目には、けっしてそらそうとしない茜の真っ直ぐな瞳が映っていた。