この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者
「んー? 天草のこと?」
「……そうだよ」
瓜宮は意地悪く微笑むと、欠伸しているような呑気な声でこう言った。
「彼女を昼休みに襲った奴がいてね。天草の首には痕が沢山あった。ただでさえ動転している彼女にこんな不良たち見せられないじゃない? だから隣の部屋に避難してもらったんだよ、西君?」
さもおかしそうな響きを込めた呼び名は神経を逆なでする。
俺は色々なことが同時に起きているのをなんとか理解しようとした。
「……休み時間に椎名を呼び出したのはお前じゃないのか?」
「……じゃないと言えば嘘になるかな」
瓜宮は乱れたシャツをポンポンと叩きながら伸ばしている。
女子みたいに。
屈むと前髪が垂れるのも女子みたいだ。
(なにを考えてるんだ俺)
「早く彼女迎えに行けば? 昼ご飯も食べてないで辛いはずだよ?」
まるで俺が椎名の昼休みを潰したのを知っているかのように。
否。
多分瓜宮は俺がつけたキスマークを見たんだ。
ブラウスがギリギリ隠せない位置につけてしまった。
(今更後悔かよ)
まさか、それに気づいても指摘する奴がいるとは思わなかった。
正直昼休みの時点では最後までやる気だったから、あとのことを考えてなかったのは事実だ。
「覆水盆に帰らず」
瓜宮がたどたどしく言った。
「今そう思ったでしょ?」
口調は柔らかいが、瓜宮からは冷酷な空気が伝わってきた。
俺の浅はかさを責める空気が。
「なにか企んでんのか?」
焦っていたかも知れない。
俺は随分無粋な質問をした。
言ってすぐ後悔したくらいだ。
「天草さぁ……」
忍者は片目を押さえながら嗤う。
「素敵な女性だよね?」
俺は勢い良く扉を開いた。
素早く見渡すと、人影が机の影からそっと現れた。
「雅樹?」
俺はすぐにその影を抱きしめた。
「椎名……っ」
「なんで? なんで雅樹が……っえ?」
力を込めると椎名は怯えて、このまま絞め殺されるんじゃないかという目をした。
俺も冷静ではなかった。
「なんで瓜宮についていった?」
すると椎名は真っ赤な顔をして首をブンブン振る。
「違う! 無理やり連れられて…」
「て?」
「連れられて……その」
「その?」
椎名は俯いて首を弱々しく振る。