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唇に媚薬
第8章 嫉妬姫
“ 今夜、逢いたい。
ちょっとだけでもいいから ”
そんな台詞、今まで男に言ったことなんて一度も無い。
ましてやメールする前に、ド緊張して手が震えるなんてアリエナイ。
私は乙女じゃない。
いい歳したアラサーだ。
自分から逢いたいなんて言う、そんな可愛い女ではないのだ。
……それなのに
散々迷った挙句、結局そのメールを送信してしまった。
……そして
返信が一向に返ってこないからって
まるでストーカーのように会社の近くまで来てしまった。
だって
どうしようもなかったの。
……葵に逢いたくて堪らなかったから。
だけど
「………」
……今、自分の行動を猛烈に後悔してる。
いや、後悔というより
頭を殴られたような衝撃を受けている。
「……なんで、何もない所で転ぶわけ?」
「ご、ごめんなさ……っ」
私の視線の先、距離にして推定20メートル。
ブラックのトレンチコートを羽織ったイケメンが
真っ白なダッフルコートを着た、背の小さい女性に
まるで王子様のように、手を差し伸べていた。