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あの店に彼がいるそうです
第7章 どちらかなんて選べない
「類沢さんになんて言われて一緒に住むことになったか覚えているか」
 質問で返されてしまった。
 頭の中を探す。
 あの日、言われたこと。
「確か……借金を返すなら家賃に払っている場合じゃないだろ。だったらアパートは引き払った方がいい、とかだっけな」
 一夜がため息を吐く。
「もしもだ、引き払っていたとしたら……類沢さん悪魔だぞ」
 ああ、そのとおり。
 悪魔だと思ったよ、今朝も。
 改めて言われるまでもない。
「そうじゃなくて……」
 俺の心の中の声が聞こえたのだろうか。
 一夜は否定するように首を振って続ける。
「三嗣と俺は留守番なんだよ」
「留守番?」
「広く云えばな」
 意味が分からない。
 俺が首をかしげていると、ぴょんと三嗣がソファに飛び乗ってきた。
 普段は自分のテリトリーなのかもしれない。
「おれといち兄は、瑞希さんがいつ借金を返し終わってもここに戻ってこれるように番をしているって話です。家賃はおれらが払ってます」
 まだよくわからない。
 一夜が低く唸って頭を抱えた。
「だーかーらーな。お前はいつここに戻ってきてもいいってわけ」
「え? どゆこと」
 少し冷静にまとめる。
 もし二人がいなかったなら家賃は払われないわけだし、家主もいないから、ここは引き払われていたかもしれない。
 今は二人が住んでいるから、管理人も事情を把握してことをなきに得ている。
 しっくりこない。
「じゃあ、俺がここで三人で住んでもいいんじゃねーの」
「すげぇな、まさかその結論になるとは」
「おれは全然かまいませんよー」
 三嗣の頭を小突いて一夜もソファに詰め寄る。
「七畳一間」
 カタコトに言われる。
「まあ……三人じゃきつい?」
「ていうか無理だ」
 まだ納得いかない。
 だって俺の部屋で二人が住んでて、俺は類沢さんにお世話になっている。
 何の所為だ。
「あっ、そっか」
「やっとスッキリしたか?」
「ともかく借金を返せばいいのか、俺は」
 一夜が足を崩して座りなおす。
「まあ、そういうことなんじゃないの?」
 返し終わったとき、俺はすぐに日常に戻れるんだ。
 わかりにくいけど、そういうことなんだ。
 もういい。
 これで納得しよう。
「あと、もう一つ」
「なに?」
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