この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
あの店に彼がいるそうです
第10章 最悪の褒め言葉です
「どこ行ってたの」
 車のキーを指で回しながら類沢が問う。
 俺は駐車場を突っ切って近づきながら、脳内ではとにかく指定されたビルの名前を何度も反芻させていた。
「えっと……急用が出来てしまって……仕事までには戻るので行ってきます」
 踵を返そうとした瞬間に体が後ろに引っ張られた。
 類沢の腕の中にいた。
「る……類沢さん?」
 顔が見えないまま類沢が囁く。
「隠し事はもっと上手くやりな?」
 びくっと肩がすくむ。
 指先まで血流を感じるほど心臓が力強く打つ振動。
 俺は振り返れなかった。
「別に……なんでもないですよ」
「瑞希の嘘は今まで会ったどの女性よりもわかりやすくて助かるよ」
「……最悪の誉め言葉です」
「そうかな」
 耳が熱い。
 類沢の香水の香りも余裕を奪う。
 元からあったかも怪しいけど。
「急がなきゃなんで」
 腕から逃れようと身じろぎをする。
「瑞希」
 類沢が腕を解いて俺を向き直らせる。
「……はい?」
「忍の件は篠田が今医師会を通じて解決案を探してる。あまり気負うな」
 篠田チーフ。
 ひょっとして昨晩の電話って……
 首を振る。
「大丈夫です」
 なにが?
 自分の声がした。
 今から鵜亥の元に行くこと?
 忍の安否?
 今の状態?
 わからない。
 けど、そう言わなきゃって思った。
「そう……開店までには戻ってきなよ」
「はい」
 類沢の眼は最後まで暗い色を滲ませていたから、俺は自分が今やっていることが正しいのかよくわからなくなってきた。
 病院から出て駅に向かう。
 その脚は、重い。
/342ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ