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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
カチャン。
ガラスの机に黒い鍵が置かれる。
血管の浮き出た手の甲を見下ろしながら俺は尋ねた。
「なんの……鍵ですか?」
「籠」
「え?」
鵜亥がスーツの襟を引っ張るように正しながら微笑む。
俺に与えられた部屋を横切り、彼は扉の前で立ち止まった。
「類沢雅からの鍵はどうした?」
先の契約後から敬語が消えた。
俺は尚も言葉遊びが続いていることへ訝しげに首を傾げる。
「何の話ですか?」
「同じだろう? 借金を負って手元に意思を無視しておかれる」
はっとした。
なんで。
何でこの人は、知ってるんだろう。
俺と類沢との関係を。
手元の鍵を指でつまんでみる。
硬くて、冷たい。
「一体貴方は何者なんですか」
「一介の闇医者だって言わなかったか?」
「そう聞きました。でも、違いますよね」
「なんだと思う?」
廊下に出かけた体を再度俺に向けて。
興味がそそられたというように。
黄色いネクタイが鮮やかにそこで存在を誇る。
「わかりません」
「そうか」
残念そうに呟き、鵜亥は扉を開いた。
「十五分後にまた来る」
その言葉の余韻が消え去るのと同時に扉が音を立てた。
閉ざされた空間を見つめて、それから鍵を握る。
知らない部屋に俺一人。
高層ビルの何十階かに。
窓に近づいて東京の街並みを眺める。
今朝までは……
忍と拓と類沢さんと。
首を振る。
冷静になっちゃだめだ。
一体俺はなにしてるんだって。
理性が怒鳴るから。
頭が痛い。
消えたはずの頭痛が身を包む。
痕がつくくらい強く鍵を握りしめる。
鵜亥の言葉が瞬くように蘇る。
類沢さんと、同じ?
ぎゅっと目を瞑る。