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あの店に彼がいるそうです
第12章 どんな手でも使いますよ

「誰にだ?」
 その質問に愛は一言、「鵜亥さんが唯一大事にしていた人です」と答えた。
 もちろんそれに対しての篠田の次の言葉は「そいつはどこにいる?」だった。

 国道沿いの小さなファミレス。
 深夜二時まで営業の店内に客は一組のカップルだけだった。
 和やかに語り合うその男女を横目に、アルバイトの青年を押しのけて事務室に入る。
「ああっ、店長!」
 その時、小木は椅子に座って決算書を作成するためパソコンに向かっていた。
 入ってきた見知らぬ男とそれに続く若い男に目を上げる。
「誰だ、てめえら」
「てめえの上司と腐れ縁だ」
 篠田のドスの効いた声に部屋の温度が下がる。
 そうだ、思い出した。
 小木が口元を歪めて椅子を回し相対する。
 しかし篠田は尚、歩を止めなかった。
「二十三号の今の飼い主か」
 ヒュンッと、風を指が切る。
 迷わず喉仏を潰すように首に回された手。
「がっ」
「俺は今悠長にてめえの軽口聞いてる気分じゃねえんだ」
 息が止まり、瞳孔が開く。
 そのまま椅子から首を持って引き摺り上げ、机に叩きつける。
 油断さえしなければ優勢に立てた小木はその事実に歯を食いしばる。
「とりあえず秋倉に電話しろ。確認したいことがある」
 相手のポケットから勝手に携帯を取り出し、力の抜けた手に持たせる。
 少しだけ締め付けを緩めたのも束の間、どこから出したのか短刀を喉元に突きつけた。
「……っ、いつからヤクザまがいのことするようになったんだよ」
「てめえらよりはまだマシだと自覚してるけどな。ほら、掛けろ」
 愛はただ入り口を塞ぐように立ち尽くすしかなかった。
 今自分にすべきことはなかった。
「もしもし……、秋倉さん。今、類沢のとこのが来てて」
 相手を確認するとすぐに携帯を奪って篠田が取り次いだ。
 片手間のように小木を拘束し続けて。
「類沢に代われ」
 愛は先ほどまで自分が居た側に今電話を通じて話している状況に、大きな違和を感じた。
 ぎゅっと目を瞑る。
 そんなこと考えても何の意味も無い。
 それよりこれからを考えろ。
 完全に自分は鵜亥さんの敵に回ってしまったんだ。
 あそこから逃げたことじゃない。
 鵜亥さんの最も大事な情報を漏らしてしまったのだから。
 汐野にバレたら即射殺だろう。
 自嘲気味に笑う。
 アホやな、って。
 あの人は言うだろう。
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