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あの店に彼がいるそうです
第2章 郷に入ればホストに従え
 痛い。
 そんな言葉じゃ足りない。
 なんとか顔を守るが、相手に容赦なんてない。
 殴り返すことも出来ず、動けなくなるまでなすがままになっていた。
「……あ……ぐ」
「はぁ、殴るのも楽じゃねぇな」
 男は煙草を取り出すと、一息吸った。
「お前さ、なんでシエラに入ってきたんだよ」
 しゃがんで俺の顔に煙草を近づける。
 熱気がきて、瞬きをする。
「ルイ割ったのお前だよな」
 寒気が駆け回った。
 これだ。
 昨日聞いた会話だ。
―お前のミスで恥かかされたじゃねえか! 昨日は太客だったんだぞ―
―……で、でも晃さん。昨日は客の方からぶつかって来て―
―言い訳はいらねぇんだよ……順位落ちたら追放するからな―
―そんなっ―
 あの男だ。
「申し訳……ありません」
「そりゃそうだ。弁償たって出来ないもんな」
 ぐしゃぐしゃになった髪を掴まれる。
 顔を上げられ、煙草を鎖骨に押しつけられた。
「ぁがっ……」
 熱くて眩暈がする。
 肉が焦げる臭いが漂う。
 身を引きたいが、捕まれてるから出来ない。
 熱い。
 痛い。
 男はニィッと笑って煙草を外した。
 その場に倒れ込む。
 麻痺したように胸全体が痺れる。
 触れると焼けただれた肌が劇痛を訴えてきた。
「ハァ……ッッ……ぐ」
「いいか? お前の売り上げで百万寄越せ。そしたら許してやるよ。何ヶ月かかっても返せよ。じゃなきゃ…」
 また頭を持ち上げられる。
「もう一度今のをお見舞いしてやるよ」
 ガタン。
 男が去った後も、しばらくうずくまっていた。
 息すら苦しい。
 痛い。
 悔しい。
 いや、怖い。
 確か、あの男はNO.5の瀬々晃だ。
 恐ろしい奴を敵に回してしまった。
「くそ……」
 なんとかスーツを整え、髪も直す。
 こんなことで諦めてられない。
 だが、あいつに云われた言葉が気になる。
―お前の売り上げで百万寄越せ―
 冗談じゃない。
 一刻も早くホストなんてやめたいのに、類沢に支払う百万と瀬々になんて払ってられるか。
 あれ。
 確か、類沢が責任者みたいな話をしていたよな。
 じゃあ、瀬々は不当に百万手に入れようとしているのか。
 わからない。
 とにかく、これから奴には警戒しないと。
 ぐらり。
 よろつく。
 でも戻らなきゃ。
 火傷を押さえて、店への扉を開けた。
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