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あの店に彼がいるそうです
第12章 どんな手でも使いますよ
鵜亥が近づいてくる音がする。
「居場所を知らなかったんじゃないのか」
「十年以上も? っはは。いや、おもろないで鵜亥はん。新宿のフィクサーって言ったら都内全域網羅し得るんやから、情報なんてすぐに入るんやない?」
「そうだな。堺はそういう面で不便だったが。こっちなら簡単なことだろう。それで、さっきから何が言いたい」
「秋倉はんは、今回の件に加わらなければ類沢はそのまましばらく放置してたと思うん」
え。
どういうことだ。
さっきから会話についていけない。
とりあえず、類沢さんは今秋倉と一緒にいるのか。
なんで。
忍は?
すぐに思考が停止する。
俺、忍のために何やってんだろ……
先ほどまでの行為が鮮烈に蘇ってきて目頭が熱くなる。
「なんで、鵜亥はんは秋倉はんを指名したん?」
ファミレスでの会合。
あそこに同席していた時からの違和感。
汐野はそれを知りたかった。
否、少しは勘付いているが、確かめたかったのかもしれない。
自分も加わっている仕事の裏にある事情を。
支社がなくなって焦っていたにしても、その矛先を長年追い求めていたが敢えて手に入れようとしない存在に向かわせたのはなんだ。
「ああ。それが訊きたかったのか」
足音が止まる。
俺はどうにか首を少し動かして、鵜亥を前髪の隙間から見上げた。
汐野をじっと見据える顔を。
「だったら、質問が間違っている」
じと、と汗が滲む。
それほどの緊張感が走った。
かけられたシーツが貼りついてくるような嫌悪感の中、鵜亥は静かな声で言った。
「秋倉の本当の目的はなんだ? そう訊けばいい」
「……同じことやない?」
「別物だ。今回仕事を引き受けたのは、秋倉本人じゃない」
沈黙が下りてくる。
何故か、俺は鳥肌が立っていた。
「あの男のバック、柾谷さんの命令に動いているんだ。秋倉真は」
「ま、さや……」
「これでお前の疑問も解決されたか? ふっ。契約段階から秋倉は乗り気ではなかっただろう? それは本心じゃないから。単純だ。あっけない真実だ」
柾谷?
誰だ。
初めて聞く名前に考察がフリーズする。
ただでさえ何かを考えられる状況じゃないのに。
一体何が起こっている。
俺がここに来てる間に。
類沢さん。
なあ。
教えて下さいよ。
類沢さん。
凄く、あんたに会いたい。