この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
 ハンドルの仕組み。
 なんで、わかったん?

 長い車中移動の中、二人の会話は少なかった。
 泣き腫らした眼をパーキングエリアに降りたとき鏡で確認した汐野は、項垂れたままコーヒーを両手に車に戻る。
 鵜亥はぼんやりと空を眺めて待っていた。
「ほい。ブラックやろ」
「ああ」
 二人で静かに休息を味わう。
 目線は合わない。
 お互いに自問するように、物思いに耽る。
 そんな沈黙が何分続いただろう。
「……汐野」
「なんや」
 初めて二人が顔を見合わせる。
 鵜亥は言葉を選ぶように、ゆっくりと云った。
「さっきお前が泣いたのを見てな、なんとなく思ったんだ。お前は、俺の元に来てから一度も泣いた姿を見せたことはなかったが……何度も泣いていたんだろうなって」
 眼の奥が熱くなる。
「……なんやそれ」
「それでも、今回俺が記憶がおかしくなってからも、お前だけが一番近くで支えてくれているだろ」
 むず痒い。
「ありがとうな」
 こんなん……
 耐えられるわけない。
 バッと鵜亥の手からカップを払い、シートを倒して上から押さえつける。
 押し倒された鵜亥は、掴まれた肩の痛みに眉を潜めた。
「あ、あんたなあっ!」
 叫んだ汐野のネクタイをくいっと引っ張り、二人の唇が触れ合った。
 あまりに突然のことに、息が止まる。
 緩く開いた口が重なり、舌が絡み合う。
「は、あ……んむ」
 シートがギチリと軋む。
 狭い車内で、二人はキスに夢中になった。
 唇が離れ、鼻が触れ合うほどの距離で見つめ合う。
 女王蜂。
 本当にこの人に似合うてる。
 吐息がぶつかる。
 眼を細めて、鵜亥が下から汐野を見上げる。
「お前は変わらないな。出会った時から、いつも欲求不満て顔して」
「なっ……知ってたんか」
「いつの間に俺を押し倒す体格になってたんだ」
 するっと首筋を撫でられる。
 ぞくぞくする。
 いつもは少年に向ける眼が、おれに向いている。
「少しだけ」
「え?」
「少しだけ、覚えていることがあるみたいだ。この五年間のこと」
 びくりとする。
 まだ、巧の影が……
「お前がいつも、俺の代わりに怒鳴っていたこととか。この車に乗っていたこととか。そんなことだ」
 なんや。
 それ。
 ほんまに。
 この人は……
 どんなえげつないことしても変わらん。
 惹かれて止まん。
「これからもやで」
「そうだな」
/342ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ