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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです
 呼び出されたのは軽井沢のアウトレットにいるときだった。
 それも旧の方だ。
 なんとなくいるんじゃないかなって、歩き回っていた。
 鏡子さんから聞いた情報だと長野か群馬かということだったから。
 それ以上は訊く気になれなかった。
 偶然会えればいいかな。
 その程度の気持ちで。
 一ヶ月弱のぶらり旅。
 まとめてみたらそんなもんだ。
 最後の給料で安い宿とか、漫喫を渡り歩いて。
 アパートに戻っても、すぐまた外に出たくなった。
 探す、とは違うのかな。
 興味かな。
 初めてシエラに行った感覚。
 そうだ。
 河南も休みに入ってたまに一緒にいる。
「誰から電話?」
「篠田さん」
「ああ! なんて?」
「今すぐ来いって」
「なにそれ」
 ふふ、と笑いながら河南がスキップして煉瓦通りを軽やかに舞う。
 可愛いな。
 天使みたいだ。
ーまた私は一番になれるかなー
 アカとの飲み会のあとに落ち合った河南がそう訊ねた。
 俺は……
ー俺も河南の一番になれるかなー
 卑怯な返しをしたんだ。
 きょとんと眼を丸くして。
ー瑞希はずうっとそうだよー
 真顔で。
 あまりにも自分が滑稽だった。
 彼女にそこまでの言葉を貰っておいて、まだこんなことしている。
 アホだろ、俺。

「あの中華やさん、ビーフンが美味しいんだって。食べていかない?」
「ガイドブック?」
「グルメブログ」
「はは、行こうか。奢るよ」
「本当に? じゃあ水だけ……」
「おい」
 えへへ、と笑いあう。
 遠慮のない、丁度良い距離。
 俺は至極落ち着いていた。
 注文をして待っている間、河南は箸の紙を折りながら呟いた。
「私ね、瑞希ちゃんがホストを続けてたらよかったなあって思うの」
「なんで」
 久しぶりのちゃん呼びに違和感を覚えながら相づちを打つ。
「瑞希ちゃん、ホストしてるときが凄いきらきらしてた。私よりずっと先を見てワクワクしてる感じ。それが好きだったな」
「今の俺は」
「お待ちどうさまです。焼きビーフンと餃子定食お持ち致しました!」
 遮られたことに苦笑いしつつ、湯気を立てる商品を受けとる。
 河南が差し出した箸を貰い、二人で手を合わせる。
「いただきます」
 熱い料理にしばらく沈黙した。
「美味しい」
「餃子の皮分厚いコレ」
「一つあげるよ」
「じゃあビーフンちょっぴり」
 わけあいっこは昔から。
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