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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです

「瑞希の気持ちはよくわかったよ……」
「ちちちち違うんです! 類沢さんが驚かすからっ」
「へえ? 僕のせいか」
 そんな様子をケイの隣で金原は呆れて見守っていた。
 息子の気持ちを汲んで、笑いかける。
「ああなる日が楽しみだな」
「父さん」
「一つ気になることを訊いてもいいか。四ヶ月前……」

 ケイが言葉を続けているときに、俺は頭を強く撫でて痛みに耐えていた。
 鏡子が爽快なほど笑い転げている。
 悠もつられて。
 松園親子ですら、鉄壁の表情を崩して肩を震わせている。
 ぶすっとした雛谷は紫苑に慰められ、空牙と吟はくだらない言い合いを続けて笑う。
 篠田はその渦の中心にいる心地よさに涙さえ浮かべて、笑った。
 スフィンクスと今後付き合いを変えていくかはわからない。
 もしかしたら戒と巧が上手く関係を修復してくれるきっかけになるかもしれない。
 雅樹と玲の行方はわからないが、またガヴィアが動き出して騒動になるだろう。
 不安要素で埋め尽くされた未来だが、確かに類沢雅がまた堂々と戻ってくるのだけは、嫌にはっきりと予感していた。

「もう、行くんですね」
 開店間際、裏口で俺は類沢と向かい合っていた。
 つい一時間ほど前に二人きりでいたときとは、別人。
 美しくて、威圧感のある類沢。
 俺は、そんな類沢さんだから……
「泣かないの」
「泣きませんよ」
 河南みたいなことを言う。
「あの部屋で待ってるんでしょ」
「合鍵貰ってませんよ」
「そうだった」
 類沢は眉を上げて、胸ポケットから銀色のアルファベットキーの付いた鍵を取りだし、俺の手のひらに握らせた。
 マスターキーだ。
 雅のM。
 偶然だけど、瑞希のMでもある。
「気になってたんだけどさ」
「はい?」
 類沢がそのまま俺の手を包み込んで呟く。
「どうして僕を指名したの?」
 さっきの疑念とは違う。
 純粋な興味。
 俺は、河南と話した内容を蘇らせた。
 四ヶ月前。
 豹柄のスーツの類沢を見て、初めてホストを見て、凄いって漠然と。
「……シエラに、類沢さんがいるって聞いてたからです」
 微かに目が大きく開かれる。
 あそこに、いるって。
 河南が指差して。
 それから、足を踏み入れて。
ー№1てどれ?ー
 何も知らずにそう、口にした。
「類沢さんこそ、なんで俺を気に入ってくれたんですか?」
 手の中のキーを弄る。
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