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あの店に彼がいるそうです
第4章 超絶マッハでヤバい状況です
「ようこそ、シエラへ」
 今夜は団体客が入り、大忙しだ。
 七人来たのが全員千夏の客だというから、呆れてしまう。
 どこからこんなに女性を集めてくるのだろう。
 ヘルプについた俺は、その仕草一つ一つを観察してしまう。
 自分とそれ程歳も変わらないのに。
「ねぇ、千夏。明日上司の誕生日の祝賀会があるんだけど、本当に行くの気が疲れるのよね」
「そう、私も!」
「行きたくないなぁ」
「もし、沙羅さんが祝賀会の帰りにシエラに来て下さったら、その疲れを全て受けとめて差し上げますよ」
「本当に?」
「もちろん」
 その沙羅という女性の手を握る。
「……大丈夫ですよ」
 甘い声。
 もう、七人全員の目が蕩けてる。
 なるほど。
 彼氏だってこんなに真剣に話は聞いてくれないだろう。
 女性がホストに求めるもの。
 その一つを垣間見た気がする。

「瑞希、少し休めば?」
 何度もホールを行き来するのを見ていたのだろうか。
 一夜が心配げに耳打ちした。
「いや、まだ大丈夫」
「でもお前……寝てないだろ」
「あ、わかっちゃう?」
 俺は目を擦った。
「隈酷いぞ。仮眠スペースが事務室の隣にあるから使って来たら?」
「仮眠スペースがあんの?」
「まぁ、新入りしか使わないけどな。上位に行けば、客を待たせたり出来ない。だから今のうちに行ってみろ」
「わかった」
 一夜に教えて貰った通り部屋に行く。

 やはり、バレたか。
 昨夜は一睡もしていない。
 類沢を意識して眠れなかったからだ。
-体を売るなら僕に売れ-
 あれはどういう意味だったのか。
 何回考えても、安心出来なかった。
 隣に眠る類沢の背中をじーっと見つめて朝まで過ごしたのだ。
 俺、あの人と暮らしてて大丈夫なんだろうか。
 そんなことすら過ぎる。
 簡易ベッドに倒れ込む。
 枕に頭を押し付け、深呼吸する。
 疲れた。
 でも、頭は動いてる。
 とにかく寝なきゃ。
 ガチャ。
 え?
「あっ、瑞希さんもいたんすか」
「……類沢さんかと思った」
「やだな、おれですよ」
「三嗣も休みに?」
「まぁ似たようなもんです。そこに冷蔵庫があるでしょ」
 頭の方の壁に大きいそれがあった。
「冷えた飲み物が入っててね。酔い醒ましにいいんです」
「……さんぴん茶とか?」
「なんですかソレ」
「いや」
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