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あの店に彼がいるそうです
第5章 殺す勇気もない癖に
「鬱陶しい」
 類沢はすがりついてきた男の襟首を掴み上げ壁に叩きつけた。
「死んじゃうよ~」
 雛谷が笑いながら言う。
「部下の管理も出来ないんなら辞めちゃえば、ホスト」
「……不届きで、スミマ……セン」
 男を落として、上着の皺を正す。
「ガーデンの本部は関与してない。多分組織的な犯行じゃないんだろ」
 マイクに伝えるとすぐに、イヤホンから声が聞こえた。
「瑞希ちゃんの位置特定したぜ」
「何故そんな呼び方なんだ……」
「固いこと言うな、吟じぃさん」
 類沢は開きかけた口を閉じて、イヤホンを切った。
 同じ会話を聞いていた雛谷がにまぁっと微笑む。
「瑞希ちゃんだって」
 それには答えず、類沢は味のしない煙草をくわえた。

 画面を見ながら溜め息を吐く。
 見覚えある倉庫。
 篠田は記憶を辿った。
 確か、昔秋倉が使っていた。
 廃業になってから、どうなったかと思っていたが、悪の巣窟には変わりないようだ。
「お疲れ様ですね」
 篠田は耳元で囁いた人物を見上げる。
「なにをしてる、我円」
 隣に伴を控えて、我円は静かに笑って会釈した。
「面白い男を捕まえましてね」
「男?」
 二人の後ろから現れた青年。
 篠田は首を傾げた。
「誰だ?」
 この忙しいときに。
 だが、我円がふざけるわけはない。
 篠田はパソコンから離れて、青年と向き合った。
「名前は?」
 地面を這っていた視線が上がる。
 まだ子どもらしさがある。
 二十歳前後か。
「……類沢の隣にいた奴を……助けないと」
「瑞希のことか?」
「ああ、そうだ。瑞希って名前だった」
 篠田は頭痛をこらえて、青年を窺う。
「オレは……圭吾です」
 真っ直ぐな瞳。
 正気ではあるようだ。
「バーの息子らしいですよ? 瑞希を連れていった犯人を見たそうです」
「犯人を? 本当か」
「あいつはよく知ってる。店に来るから……」
 篠田はその名前を聞いて、にわかに目を見開いた。
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