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あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
 倉庫にいたホスト達の店には連絡した。
 何も要求はしていない。
 ただ、任せると。
 歌舞伎町のルールに乗っ取って、任せると。
 電話を切った篠田は苦く顔を歪めた。
「これだからホストが足んなくなるんだよな」
「掃除だよ。人事異動」
 玲と聖は遂に捕まらなかった。
 捕まえたい訳でも無かった。
 聖は今、どの店にいるのか。
 知る気もなかったから。
「そろそろ鎮静剤が効いてきたか?」
「瑞希?」
「お前もだよ」
「さあ……慣れた」
 三本目を軽く噛んで、類沢は車に背中を預けた。
 太陽をよく含んだ暖かなボディに。
「なんか疲れたね」
「ああ。考えたくないものも考えたからじゃないか」
 篠田の顔に、複雑な感情が波打つ。
「春哉は……」
「なんだ」
「今まで雇用したホスト全員覚えてる?」
「そうだな、エピソード一つくらいは覚えてる。全員」
「凄いね」
 穏やかな時間。
 二人は風を浴びて力を抜いた。
 張り詰めていた緊張も共に。
「帰って眠ろうかな」
「休め」
 篠田も疲れを隠さなかった。

 車に乗り込む。
 ハンドルに伸ばした手がひきつった。
 腕を掴んで深く息を吐く。
 小刻みに震えている。
 まだ、キツイか。
 助手席の瑞希も意識はないが、もがくような息をしている。
 被せたコートの隙間から暴力の痕が見える。
 痣。
 縄の痕。
 唇も切れてる。
 泣き腫らした目も痛々しい。
「早く帰らないと」
 キーを差し込み回す。
 三秒ほど冷たいハンドルに、もたれかかる。
「帰れなくなるね」
 起き上がって目を擦り、類沢はアクセルを踏んだ。
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