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あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
 河南が小さな口でストローをくわえ、軽く噛んで離す。
 歯形の残ったそれがグラスに倒れる。
「お客さんと浮気しないでね」
 金の瞳がじっと見つめてくる。
 油断したら呑まれそうな金色。
 俺は蓮花さんを思い出しながら頷いた。
 女性の眼には魔力が宿ってるんじゃないだろうか。
 そのくらい二人のは引き込まれる。
 さらに凄い眼を知ってるが。
「絶対しないよ」
 長い睫毛が伏せられる。
「その言葉は信じられない。絶対なんてないから」
「河南……」
 細い指でグラスを包む。
 前にあげた指輪を左手の薬指に見つけた。
 毎日つけるよ。
 そう言った通り、彼女は欠かさない。
「瑞希は格好よくなった、本当にビックリするくらい。Tシャツにジーンズしか見たことないのにお洒落になったし、待ち合わせも早く来てる」
「良いことじゃないのか?」
「いいことだよ。でもね……」
 栗色の髪をいじる。
 気持ちを静めるように。
「不安になっちゃうなぁ……今の瑞希は、きっと沢山の人を惹き付けちゃうから」
「そんなことは」
「ひとつだけ安心なのはね」
 そこで悪戯っぽくフフっと笑う。
「シエラは類沢雅さんがいるでしょ、だから瑞希に群がる人をあの人が奪ってくれるんじゃないかなーって」
 珈琲のカップが震える。
 いや、震えているのは俺の指だ。
「は、はは……そうだな。類沢さんは本当に凄いし、俺なんか足下にも及ばないよ。そうに決まってる……」
 顔がうまくつくれない。
「類沢さんって呼んでるんだね、話したりするの?」
 話したりするの、か。
 話すどころじゃない。
「まあ、色々?」
「どんな人?」
 ヤバい。
 この話題は早く終わらせないと。
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