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あの店に彼がいるそうです
第7章 どちらかなんて選べない
「類、沢様の」
「ちょっと色々あって」
 固まる河南の肩を掴んで早口に言う。
 左からは類沢の、右からは篠田の愉しげな視線が刺さる。
 他人事だと思って……。
「シエラのメンバーって共同に住んでるんですか」
 ああ。
 純粋ゆえの食い下がり。
 河南は悪くない。
「いや、瑞希は特例かな」
 悪いのはこの男。
 あと俺か。
 首を汗が伝う。
「この話は今度にして映画始まるから行くよ、河南」
「やだ。瑞希は答えてくれないもの」
「じゃあ答えるから。類沢さんもプライベートなんだから邪魔しちゃ迷惑だし」
 出ていこうとした俺の手を河南が離す。
「別に構わないよ」
「ほら。類沢様こう言ってるし」
 だからなんなんだよ。
 その様づけは。

 結局どこに落ち着いたか。
「良い香りしますねー」
「どうも」
 窓は軽く開いている。
 ここは篠田の車の中だ。
 乗員はもちろん四人。
 このシチュエーションは夢すらまさか予想していなかっただろう。
 河南が助手席。
 なぜか、だ。
 俺は隣の類沢を睨みながら後部座席に座っている。
「女を後ろには乗せられない」
 篠田チーフ絶対楽しんでる。
 俺はこの台詞を聞いて確信した。
「なんか感動です。シエラのトップとチーフさんと同じ車に乗ってるなんて」
 緩やかにカーブを曲がり、橋を渡る。
「だってよ、雅」
「春哉こそ」
 あれ。
 名前で呼びあってたっけ。
 それより気になるのは行き先だ。
 一体このメンツで、どこで休日を過ごすというのだろうか。
 河南が男ならまだいい。
 いや、よくない。
 この二人の思惑はなんなんだ。
 そんなに河南と別れさせたいのか。
「ひぃやッッ」
「え?」
「なんでもないっ」
 俺は首筋を押さえながら、必死で河南に手を振る。
 そして笑っている類沢を横目で睨む。
「ナニ」
「……やめてください」
 小声でいっても効果はないんだろう。
 類沢は腕を組んでウィンクした。
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