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贄姫
第5章 伍
ざらついた舌が
椿の涙を舐めとる。
「泣くのは反則だ…」
瓊乱の苦しげな言葉に椿は彼を見た。
そして、その表情にゾッとするほどだった。
美しく、なんとも残酷な表情。
意識さえ持っていかれそうなほどの
妖艶な笑みに椿は言葉を失った。
この表情をさせているのが
自分だとは…。
悪寒が背中を走った。
ここまで高貴で邪悪で高飛車なこの鬼を
ここまで苦しめてしまう存在である自分に
怒りと、絶望がよぎった。
そうとは知らずか、そうと知ってか
鬼はさらに椿の奥深くへと入り込み
猛るそれを抑えられず椿を壊しにかかった。
瓊乱にされるがままになるのは昨日の夜からだが
椿はそれを拒むすべを知らない。
そして、抗いたい感情とは裏腹に
この鬼のより深くにある悲しみと憎しみを
うっすら感じとった。
ゆえに、椿は瓊乱を拒絶しかねた。