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贄姫
第1章 壱
「周っ!」
そこに、強い風に目を細める周が膝立ちでいた。
視線は椿ではなく、まっすぐ前を向いたまま
何かを凝視していた。
「周、血が…」
何かの拍子に切ったのだろう。
狩衣のあちこちが裂け
白い布が赤く染まっている。
「気を、抜くな」
周は呪符を素早く取り出して口に含むと
ぷ、と吐き出す。
周の息吹が呪符と混ざり
あっというまに目の前に五体の式が現れて
2人の風除けになった。
「なに、どうしたの!?」
訳が分からずパニックになる椿の頬に
周の手が触れた。
温かくて、思わず涙が出る。
「冷静に聞け」
これが、冷静になれる状況なのだろうか。
呼吸も、意識しなければできないほどに切迫していた。
周の視線が椿に届き、
その言葉を飲み込んだ。
冷静に、といわれるまでもなく
血の気が引いて頭は真っ白でなにも考えられなかった。
「外に、多くの妖たちが押し寄せて来ている」
見ずとも、分かる。
血に湧き踊り、枯渇と欲望を満たそうとする
怪異たちの気配。
「こちらも最大限の人選で臨んでるが
数が、多すぎる」
その瞬間、周の式が1体の吹き飛んだ。
同時に彼の口から血が出る。
「周っ!」
平気だ、と口の周りを真っ赤にした周は
見たこともないほど顔色が真っ白だ。
「久々の贄姫の報せに
大量の怪異が押し寄せて来ているんだ。
人と妖は、本来交わってはいけない存在同士。
しかし、贄姫は別だ。
その禁忌を侵して存分に味わえる。
妖にとって、お前ほど美味しい人間はいないだろうな」