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贄姫
第1章 壱


「いいだろう、その契約を結ぼう」


男の、耳に心地よいハスキーな声が静かに響いた。


「お前の名を教えろ」


その時、周の頭が微かに動き
重たそうにまぶたが開かれる。


「……!」


周のかさついた唇からは、
声さえ出なかった。


やめろ、椿、と痛切に叫んだが
声が空回りして唸り声にしかならない。
それに気づいた椿が
目を見開いて周を見つめた。


「周!」


「癪だが、あの男も助けてやる。
だが、命のあるうちでないと助けられない。
もうすぐあの男の命は尽きる。
助けたければ、さっさと女、名前をよこせ」


ーーーダメだ、椿。


周は口に出すが、声に出ない。


「…あたしの名前は…」


やめろ、と微かに声が出た。


「あたしは……」


「……めろ…」


「あたしは…」
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