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Love adventure
第28章 愛しい奏で
 ――いったい、 今は何時なのだろう。
 暗い部屋のベッドに横たわり、西本祐樹は天井の一点を見つめる。
 東京に帰って来てから、彼はずっと闇の中に居た。
 外で何が起きていようがいまいが、昼だろうが夜だろうが、どうでも良かった。
 厚いカーテンを閉め切れば外の明かりが遮断される。
 テレビ、パソコン、携帯なども見なければ、明かりどころか何の情報も入ってこない。
 時々、綾波やメンバーが声を掛けてきたが、彼らと会話もしなかった。
 来月の武道館公演を前にして、手を怪我したり歌えなくなったりーーこんな状態が不味いのはわかっている。
 だけど、どうしても歌うことができない。
 クレッシェンドの楽曲のすべてをーー歌おう、奏でよう、としてもーー胸の奥に異物が詰まってしまったかの様にーー声を出そうとすると苦しくて吐き気さえ覚える。

 ピアノに向かえば、いつでもキラキラと輝く音の世界の中、自由自在に跳び回る事が出来た。なのに、あの日以来、ピアノの前に立つ事さえ苦痛になってしまった。

 あの日――そう、彼女と……ほなみと別れた日から……

 自分の音楽を表現し、世の中に発信する事、ステージに立って演奏することを夢見てきた。
 必死になって路上ライブもしたし、どんな場所へも出向いて演奏した。時には騙されたりして悔しい思いもした。
 デビューしてから、自分の作った音楽に酔いしれ、ライブ中に涙ぐむ客を見て
「ああ、自分はやっと、夢への第一歩を踏み出したんだ」
 と思えた。
 音楽と引き換えに命を懸けてもいい、という信念を持ってここまできた。


 それなのに、今の自分の不甲斐なさは何なんだ。
 ほなみと会う以前も、いくつかの恋をしてきたつもりでいた。
 今まで会った女の子達は皆、可愛くて安らぎをくれたし
「西くんの為なら何でもできる」
 と、言っていたーー
 西本自身も、恋をする度に、彼女達に対して、
「出来る事はなんでもしてやりたい」
 と、心から思っていた。

 だが、彼女らは結局、スケジュールの都合などで会えない日々に不満を募らせ、他の男を選ぶ。西本を捨てて。



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