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初花
第4章 猫柳
いくらか風が弱まり
柔らかな陽が照らす道をゆき
寒牡丹の咲く寺に、ふたりで訪れた。
彼が纏い 現れた、あの花。
純白に紅を刷いたような牡丹の
その雰囲気が 龍に似ているとおもう。
私の隣で紅い花を見つめて
龍は 泣きそうな顔をした。
「好きな花では なかったのか。」
問いには答えず、
ちいさく笑って空を見る姿に胸が痛む。
なにか、思い出してでもいるかのような
うつくしく せつない眼差し。
…それは 実らなかった淡い恋だろうか。
「拝観してから、帰るとしよう。」
ひとり物思いに耽らせたくはなく
私は、おもわず その手をひいていた。
すこしの間だけ、気を遣って人払いされた庭に
ふたりの影が 寄り添って歩く。
・
砂利を 踏む音のなかに
ふと、 声が混じった。
「合歓の花…のほうが」
おもわず 見遣り、
「その花が 好きなのか」と 問えば
微笑んで 頷く。
・
・
空が見たいと 言った他には
欲しいものも 行きたい処も言わぬ龍。
泣き暮らすでもないが…
庭の花にも いくらか目はやるものの
やはり 空を見てばかりいる その胸には
なにがあるのだろうと 常に思う。
まるで 羽をきられた美しい鳥が
もういちど 籠からでて
飛びたいと願うかのような あの目を見るのは
私にも 辛いことだ。
・
・
・
そんな龍が、手をひかれたまま
こちらを見あげて いま、 微笑んだ。
穏やかな陽のもとで
やわらかく内から光るような、美しい姿。
ましろに輝く猫柳のようだと、思った。
柔らかな陽が照らす道をゆき
寒牡丹の咲く寺に、ふたりで訪れた。
彼が纏い 現れた、あの花。
純白に紅を刷いたような牡丹の
その雰囲気が 龍に似ているとおもう。
私の隣で紅い花を見つめて
龍は 泣きそうな顔をした。
「好きな花では なかったのか。」
問いには答えず、
ちいさく笑って空を見る姿に胸が痛む。
なにか、思い出してでもいるかのような
うつくしく せつない眼差し。
…それは 実らなかった淡い恋だろうか。
「拝観してから、帰るとしよう。」
ひとり物思いに耽らせたくはなく
私は、おもわず その手をひいていた。
すこしの間だけ、気を遣って人払いされた庭に
ふたりの影が 寄り添って歩く。
・
砂利を 踏む音のなかに
ふと、 声が混じった。
「合歓の花…のほうが」
おもわず 見遣り、
「その花が 好きなのか」と 問えば
微笑んで 頷く。
・
・
空が見たいと 言った他には
欲しいものも 行きたい処も言わぬ龍。
泣き暮らすでもないが…
庭の花にも いくらか目はやるものの
やはり 空を見てばかりいる その胸には
なにがあるのだろうと 常に思う。
まるで 羽をきられた美しい鳥が
もういちど 籠からでて
飛びたいと願うかのような あの目を見るのは
私にも 辛いことだ。
・
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そんな龍が、手をひかれたまま
こちらを見あげて いま、 微笑んだ。
穏やかな陽のもとで
やわらかく内から光るような、美しい姿。
ましろに輝く猫柳のようだと、思った。