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快楽の奴隷
第10章 幻のいる間
間違えて実家に帰る路線の駅に行きかけて、花純は照れ笑いを浮かべた。

『違う違う……こっちだった』

踵(きびす)を変えて山手を走る私鉄の駅に向かう。

先週高梨の所有するマンションに引っ越したばかりの花純は、既に同じ間違いを三回もしてしまっている。
その度に気恥ずかしいような幸せを感じてしまう。
それはもちろん高級マンションに住める幸せや、念願の一人暮らしが出来る幸せではない。
高梨が自分のために行動を起こしてくれた幸せである。

家を出て一人暮らしをはじめる娘に父は反対し、母は賛成してくれた。
予想取りの展開だった。
引っ越し先はきちんと本来引っ越す高級マンションの住所を伝える。
高梨が提案してくれたように偽りの場所を伝えることはしなかった。

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