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シリウスの小説執筆方法論
第6章 『よこはま・たそがれ方式』で官能小説を書いてみる
※まずひとつは、この文はほぼ『名詞』構成されていること。

先ほども言いましたが、この12行の文節のうち、1~9番目まではすべて『名詞』です。
この詞はほとんど名詞だけで「設定」「時間の経過」「登場人物の関係性」を表現しているのです。
それが第一の制約です。

※第二の制約は『感情表現をしない』ことです。

この詞の中には「うれしい、かなしい、憎い、悔しい」などの感情表現の言葉が一切ありません。

※そして第三の制約、それは『動作表現をしない』ことです。

動作を表す『動詞』もしくは「~した」という動作を表す単語がありません。
でも「あの人は行って行ってしまった」と、動作表現しているではないか? と言われますが、その通りで、でも、この「あの人は行って行ってしまった」の部分は、実は、次の第四の制約になるのです。

※第四の制約、それは『セリフで感情を表す』ことです。

この詞の中で名詞でないのは三文しかありません、ただしその中の一文は繰り返しで使われているので、二種類しかないことがわかります。

まず「あの人は行って行ってしまった」という文は、主人公の女が「男の状態」を語ったにすぎませんが、実は女の「心の中のセリフ」と考えられます。

「感情の高ぶり」から出た「心の叫び」と言ってもいいかもしれません。
実際の曲でもここが“サビ”の部分で、更に二度繰り返すことでもっと強調されています。

女の「かなしい」とか「切ない」とか「憎い」とかという心情は、どこにも書いていませんが「あの人は行って行ってしまった」と心の中で叫んでしまうという(それも二回)ことを通して、女の心情が読む方にも伝わってきます。

ちなみに最後の文「もう帰らない」、これも女の「心の中のセリフ」です。
「もう帰らない」の主語は、もちろん「男」です。
この場合も、これから予測される男の「状態」(あくまで主観)をつぶやいて、余韻を残して「おしまい感」を出しています。

以上が、『よこはま・たそがれ』で使われている制約です。
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