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タンバリンでできたオーロラ
第18章 ダッテリーノ
カミさんが、第一子を連れて天国に逝っちまって、もう何年になるだろうか。
あのとき俺は産婦人科の病室で大泣きした。
泣いた事は憶えているが、そのときどう思ったか、どう感じたかなんて、もう憶えちゃいない。だが、泣いていたのだから悲しかったのだろう。
時の流れというのは残酷だ。
そして、それは時が流れてから始めてわかるから、より一層残酷だ。
泣いておいて良かった。
あのとき、もし俺が涙を流して、声を枯らして妻の名を叫び、喚いていなかったら、今こうして思い返しながら、俺はあのとき自分は何を感じていたかを思い出せないままだということだ。
親父もとうにくたばった。
大往生だったから、そのとき俺は涙を流したりしなかった。
だから、自分が親父の葬式のとき何を考えていたかは永遠の謎だ。だが、それでいい。