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タンバリンでできたオーロラ
第18章 ダッテリーノ

「そうですか……」
女は残念そうに呟いた。
いや、本当に残念なのか?
その少し儚げな、張りつめたような表情は元々のものではないのか。
俺は思わず目を細めた。
俺よりひと回りかふた回りぐらい年下の女だ。
齢50を越えてりゃ、こんな高級食材店に出入りする女性客はみんなそうなる。
40か30と言った所だろう。
思慮の浅い20代の女とは違った、成熟した佇まいのある女たち。
彼女はその中でも、よっぽどしっとりとした落ち着きを漂わせていた。
ただ静かに、そうですかと一言つぶやいた。
それだけで伝わるものがあった。
「またすぐ入荷します。船便だから日は決まっていませんが」
「そうですか……」また、彼女。
俺は彼女の少し潤んだような黒い瞳を見つめ返した。
それだけで伝わるものがあるのだ。

