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ネムリヒメ.
第7章  知らない自分.



そして葵くんは何事もなかったかのように、ただ呆然とするアタシの残りの髪を手際よく巻きはじめる

仕上げにスプレーをふって手ぐしで整えると、放心したまま動かないでいるアタシの額に軽く唇をよせた


「ん、可愛くできた」


彼の声に我に返って鏡を見ると、きつくなくふんわり綺麗に巻かれた髪が揺れていた


「ストレートもいいけど、巻いたのも可愛い」


「…ありがとう」


鏡から目を外して彼を見上げると、普段通りの優しい葵くんの顔がある


「じゃ、オレ いくね」


「あ、うん」


手早く道具を片付けると葵くんはジャケットをはおってサングラスを手に取った



しかし、部屋から出る前になにかを思い出したように彼はアタシの手を引く







「ナギによろしく…」










「ぇ…」




耳元に顔を近づけ低い声で囁く彼…


そのまま髪の上からチュッと音をたててキスを落とすと、葵くんは颯爽と部屋から出ていった



「………」



部屋に残されたアタシ…



髪が揺れて、葵くんの香水の移り香が鼻を掠める


すると耳元で囁く彼の低い声と鋭い瞳が脳裏を過ってゾクッと背中が泡立った

思わず触れた耳は燃えるように熱く、彼に残された行き場のない熱がアタシのなかを掻き乱す



…ふと、鏡を見る…



そこには頬を紅潮させ瞳を揺らす

知らない自分が映っていた…



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