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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
だから、もうこれで直輝が協力してくれず、本当に今度こそ子どもを望めないと判ったのなら、ここで今、死ぬのも悪くはないし悔いはない。
少し力を込める。今度は少し深く皮膚を抉ったと見え、血の滴がポタリと落ちた。
「止めろ! 止めるんだ」
直輝が突進してきて、紗英子の腕を掴んだ。サッカーで鍛え抜いた逞しい手で手首を掴まれたら、ひとたまりもない。紗英子は小さく呻いて、刃物を床に落とした。包丁が絨毯の上に落ちて、転がる。
「お前、尋常じゃない。狂ってる」
直輝は小さく首を振りながら呟いた。
そう、確かに私は狂っているのかもしれない。子どものこと以外に、何も見えず考えられなくなっているのかもしれない。
でも、それが何だというのだろう。本当に欲しいものを手に入れるためなら、人はどんなことだって、できる。
直輝が重い溜息を吐いた。
「仕方ない。お前という女にはつくづく愛想が尽き果てたが、仮にも長い月日を共に歩いてきた仲だ。眼の前で死なれたら、俺も後味が悪いからな。だが、俺はあくまでも認めたわけじゃない。俺が協力するのは精子を提供するところまでだ。後は知らない。一度だけ、お前の気の済むようにしろ」
少し力を込める。今度は少し深く皮膚を抉ったと見え、血の滴がポタリと落ちた。
「止めろ! 止めるんだ」
直輝が突進してきて、紗英子の腕を掴んだ。サッカーで鍛え抜いた逞しい手で手首を掴まれたら、ひとたまりもない。紗英子は小さく呻いて、刃物を床に落とした。包丁が絨毯の上に落ちて、転がる。
「お前、尋常じゃない。狂ってる」
直輝は小さく首を振りながら呟いた。
そう、確かに私は狂っているのかもしれない。子どものこと以外に、何も見えず考えられなくなっているのかもしれない。
でも、それが何だというのだろう。本当に欲しいものを手に入れるためなら、人はどんなことだって、できる。
直輝が重い溜息を吐いた。
「仕方ない。お前という女にはつくづく愛想が尽き果てたが、仮にも長い月日を共に歩いてきた仲だ。眼の前で死なれたら、俺も後味が悪いからな。だが、俺はあくまでも認めたわけじゃない。俺が協力するのは精子を提供するところまでだ。後は知らない。一度だけ、お前の気の済むようにしろ」