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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
♦RoundⅤ(覚醒)♦
それは突然の目覚めにも似ていた。いや、目覚めるというよりは、長い長い旅から漸く帰還したと表現した方が正しいかもしれない。意識を手放していた間はものの数時間にすぎないのに、随分と長い眠りについていたような心地で、まだ意識の芯はぼんやりと半ば眠ったままのような頼りない状態であった。
「有喜菜?」
聞き慣れた―けれども、今は何か無性に耳にしたくない女の声がまだぼんやりとした意識に引っかかる。
有喜菜は半ば開いた眼をわずかにまたたかせた。
「良かった、気がついたのね」
何なの、この癇に障る女の声は。
有喜菜はのろのろと視線を動かし、定まらない焦点を声の主に合わせる。と、瞳を潤ませた中年の女が気遣わしげにこちらを見ているのが映じた。
「気がついて良かったわ。本当に良かった」
長年の親友紗英子がハンカチを眼に押し当て、しきりに〝良かった〟と繰り返している。一体、何がそんなに良かったというのだろう。
それは突然の目覚めにも似ていた。いや、目覚めるというよりは、長い長い旅から漸く帰還したと表現した方が正しいかもしれない。意識を手放していた間はものの数時間にすぎないのに、随分と長い眠りについていたような心地で、まだ意識の芯はぼんやりと半ば眠ったままのような頼りない状態であった。
「有喜菜?」
聞き慣れた―けれども、今は何か無性に耳にしたくない女の声がまだぼんやりとした意識に引っかかる。
有喜菜は半ば開いた眼をわずかにまたたかせた。
「良かった、気がついたのね」
何なの、この癇に障る女の声は。
有喜菜はのろのろと視線を動かし、定まらない焦点を声の主に合わせる。と、瞳を潤ませた中年の女が気遣わしげにこちらを見ているのが映じた。
「気がついて良かったわ。本当に良かった」
長年の親友紗英子がハンカチを眼に押し当て、しきりに〝良かった〟と繰り返している。一体、何がそんなに良かったというのだろう。