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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 その翌週、紗英子に伴われ、有喜菜は初めてS市のクリニックを訪ねた。湖畔にひっそりと建つクリニックは病院というよりは、どこかのペンションかコテージのように瀟洒な外観だった。日本で唯一、現行では違法とされる代理母出産を取り扱うということで、どんな大病院かと想像していたのに、現実には小さな普通のどこにでもあるようなクリニックにすぎない。
 院長の深沢という銀髪の医師は六十前だという。代理母出産を扱ったことで既に警察から任意同行までされたことがあるというのに、それでも不妊に苦しむ夫婦を救いたいと懲りずに代理母出産を手がけている。確かに深沢院長のその物腰は恬淡としており、到底、話題性や金儲けのためだけにこの日本でも稀な体外受精を手がけているようには見えない。
 とりあえず初回は紗英子と有喜菜それぞれがひととおりの検査を受けることになった。紗英子は卵巣と卵子の状態、有喜菜は全体的な健康診査と、更に卵巣・子宮から卵管など、妊娠に適した状態かを綿密に調べるかなり大がかりなものとなった。
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