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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 引き出しにズラリと並んだ腕時計は、もちろん中学生のお小遣いで買うものだから、どれも高価なものではなかった。でも、直輝が一つ一つ想いを込めて大切にしていた宝物だというのは有喜菜にもよく理解できた。
 少し得意げに、面映ゆげに見せてくれたあのときの彼の表情を有喜菜は忘れたことはなかった。
 だが、最近、意外なことを知った。あのコレクションを何と直輝は長年の恋人であり妻となった紗英子には一度として見せたことがないばかりか、話したこともないという。それは紗英子自身の話から発覚したことだ。
 子宮摘出の手術後、初めて逢った時、紗英子が直輝へのクリスマス兼結婚記念日のプレゼントとして何を贈れば良いか判らない―。そう言って有喜菜にアドバイスを求めたことがあった。 
 あの時、図らずも知ったのである。普通なら、ただの友達にすぎない有喜菜などよりも、中二のときから付き合った彼女である紗英子の方にこそ真っ先に見せるべきものだ。
 何故、あの頃、彼が紗英子にコレクションを披露しようとしなかったのか。今なら、直輝の気持ちが痛いほど理解できた。
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